小川郷太郎の「日本と世界」

フランス柔道誌 L’Eprit du Judo 「柔道の精神」
10・11月号 小川郷太郎便り(第4回 和訳)

規律正しい4000人の小さな柔道家

8月1日に東京の武道館に行った。6歳から12歳までの約4千人の小学生とその先生や保護者が日本中から集まって第42回全日本少年少女武道錬成大会が開催されたからである。昨年の柔道世界選手権では日本男子が大敗北を喫したが、今年東京で行われた選手権では立派な成績を収めた。こうした状況を考えると、この大規模な大会における子供たちの規律や意気の高さには大いに元気づけられた。 全柔連の指導者や先生方は子供の柔道指導を改善する必要性を感じている。この大会に寄せられた上村講道館長・全柔連会長は特に柔道を通じた人間教育の重要性に言及した。この大会の名称の一部である「錬成」という日本語もこの行事の教育的性格を物語っている。最初の技術指導の時間では先生方が受けを取り、正しくかけた子供の技を受けて心地よく投げられている。それが終わると8歳以上の児童の間で2分間の試合が行われる。広い武道館の空間に16の試合場が設けられ、そこで試合が同時進行する場面を想像してみてほしい。子供たちの態度は礼儀正しく、闘志も漲っている。子供たちの先輩や高校生が、日本的に正確に進む試合の運営を手伝っている。親・兄弟たちや友人たちが大きな声援を送り、先生たちは喜んで審判を引き受ける。 日本のこのような光景は素晴らしいものである。選ばれた生徒たちだからだろうか、技の完成度も予想以上に高い。背負投、大外刈から小外刈など技も豊富で正しくかけている。姿勢が良く、そのため技も効く例も多いのが印象付けられた。以前には、相手に技をかけられないようにするため相手の引手を切るように教える先生をよく見たが、最近はそういう指導者は少なくなっている。他方で、かなりの数の試合は寝技で勝負が決まった。審判が寝技の勝負に十分な時間を与えることも背景にある。こうした傾向を評価する者は筆者に限らない。講道館の責任者の一人である小志田憲一氏は、「明らかに、指導者に柔道の質をよくしようとの意識があります。再び先生方は子供に正しく組むように指導していますし、審判も寝技の攻防の重要性について理解しています。」と語る。 こうしてみると、日本においては、組み手争いは相手から一本を取るのではなく相手に柔道をさせないという結果に陥っている最近の傾向を修正しようとの一般的な意識が強まっているように思われる。2012年から中学校において武道が必須科目になるが、子供たちの行動は、この好ましい傾向を反映しつつあるように見える。武道を必須科目とする新しい状況は、いかなる手段を用いてでも勝つ柔道ではなく、心身の鍛錬である教育としての柔道を教える必要性を強めるものである。この錬成大会を見て筆者はやや楽観的になった。