小川郷太郎の「日本と世界」

パリ国際柔道大会観戦所感

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リネール選手(フランス)の試合

柔道の国際試合の中でも東京大会と並んで重要なパリ国際大会(グランドスラム)が2月6日と7日の両日に行われました。私もこの機会に、日本での大会との違いや新しい規則に基づく試合の内容や大会の運営振りを見たいと思い、パリに行って観戦しました。その際短時間ではありましたが、国際柔道連盟(IJF)やフランス柔道連盟(FFJDA)の首脳を含めた若干の柔道関係者と意見交換もしました。これらを踏まえ、以下に個人的感想を述べてみます。

1. 試合内容及び大会運営
(1) 試合内容は、全体として前傾姿勢や組み手争いが以前より少なくなり、また、一本による勝負も比較的多く、最近のルール改正が良い効果をもたらしているとも感じられ、多くの柔道関係者も同じような肯定的評価をしていた。ルール改正により怪我が少なくなったとの評価(パリ近郊県の柔道連盟会長)もあったが、それも確かかもしれない。但し、試合ルールや審判の指導によって、もう少し選手を組み合う方向に仕向ける工夫は必要であろう。
(2) 寝技による一本は日本の女子選手に多く、立ち技から寝技に入る連携の巧みさが最近強くなった日本の女子選手の活躍の背景として興味深い。
(3) 旗判定に至った試合は少なかったが、判定の内容には疑問が残るものがあった。
(4) スピーディーに試合が展開された運営ぶりは評価される。フランス柔道連盟の経験の賜物だろう。
(5) パリ大会独特のものかもしれないが、大会を盛り上げるためと思われる音楽の音は騒々しく、また、試合中に時に意図的に「ガリガリッ」という大きな音を流すのは不快でもある。(フランス人の反応として、フランス人はこのような音楽を好むのだからよいという意見と試合の品位を悪くするので反対との意見があった。また、「ガリガリッ」という音について、ある日本人の出場選手に聞いたところ、試合中はあまり気がつかなかったとの反応であった。) 場内放送にはフランス人選手への応援を煽るようなものがあるが、これは試合の運営者として公平ではない。

2. 審判にかかる問題
(1) やはり「一本」の判定が甘い例が多い。「一本」の判定基準について改めてIJFでしっかり議論をしてそれを周知徹底させるべきである。
(2) 寝技が進行中に主審が過早に「マテ」を宣告して立たせる例は相変わらず多い。但し、絡まれた足を抜く時間を一定時間与える審判もあり、総じて「マテ」までの時間は以前よりはやや長くなったように思われ、出場した日本の女子選手もこの点を明確に認めていた。他方、FFJDA首脳を含むフランスの柔道家にはまだ尚早の「マテ」が多いという意見がある。実態は、審判によっても差があるので、この点も改めてIJFで議論のうえ周知徹底すべきである。上記(1)を含め、このような問題については日本が主導的に行動すべきである。

3. 試合規則にかかる問題
(1) 前述の通り、新しく変更された試合規則について、変更の結果については肯定的な受け止め方が多いが、その決め方が短兵急で透明性にも欠けるとの当方の問題指摘には賛同するフランス人柔道関係者が多かった。
(2) これに関連して、規則を頻繁に変えるべきではないこと(規則の安定性)についても共通の認識がある。ただ、最近の変更が概ね良い結果をもたらしており、また、現在の新しい規則がロンドン・オリンピックまで不変更とされていることから、それを是とする意見もある。
(3) 最近、直接的な足取り等を反則技にしたことから、今回も反則負けの例もあった。しかし、そのような反則行為が「一本」と同等で直ちに負けを宣告されるのは、見ていてやはり不合理である。この点に同意する柔道関係者も少なくない。せめて「指導」ないし「指導×2」程度にすべきとの意見もあり、同感である。
(4) 今回の大会だけの問題ではないが、一般的に、主審があまり安易に試合を止めて「指導」を与えるのは必ずしも好ましくないと考える。何度か「指導」を与える結果、全体として優劣の差が実質的にない両者のいずれかを勝者にすることになり、今回もそのような例は若干見られた。ともすると、ボクシング試合の判定より優劣が不明な試合でもどちらかを勝たせることになり、そのような例が多いと試合を面白くなくするし、そもそも柔道の本来の姿から離れてしまう。 規則の安定性の必要性もあるので直ちには無理かもしれないが、今後の課題としてIJFとして再検討すべきと思う。

4.礼法の問題
(1)審判が選手に礼法順守を指導する例が比較的多く見られたのは好ましい傾向であった。特に、日本の天野審判員は勝って驕る選手をたしなめるなど、立派な審判ぶりであった。
(2)以前よりは良くなったとはいえ、主審が促してもすぐに従わない選手もまだ少なくない。日本男子選手の中にも、勝って何度もガッツポーズを見せる者がいた。日本人選手は礼法の模範であるべきであり、日本国内でもっと礼法指導を強化徹底する必要がある。

5.その他
(1)ヴィゼール会長によるIJF新体制に関しては、直接的関係者は言葉を濁しているが、その強権的運営方法について不満が感じられた。フランス柔道誌関係者はロシア等他国にも不満があり、連携した対応の必要性を示唆していた。
(2)予想通りではあるが、国際柔道の諸問題に関する日本の姿勢や日本柔道界の現状等、日本の動向についてフランス等に強い関心がある。日本の姿勢が一般的に不明確であることへの不満や日本のより明確な役割発揮への期待が感じられた。