小川郷太郎の「日本と世界」

 

宗岡新体制の発足を祝す:
有識者も幅広い改革を期待

2013年8月22日
                                 小川郷太郎

 

21日、全日本柔道連盟が宗岡正二氏を新しい会長とする新体制を発足させた。宗岡氏は、柔道経験者であると同時に新日鉄住金という世界的企業を導く経営者である。地球規模の視野を持ち大きな組織運営に手腕を発揮する宗岡新体制の発足を心より歓迎する。就任の記者会見で宗岡会長は、ガバナンスの改善、透明性と説明責任のある組織に変えていく強い意欲を表明した。柔道界の重鎮である山下泰裕氏が副会長としてこれを支える態勢ができたのも心強い。とかく閉鎖的であったこれまでの全柔連を変えてくれるものと大いに期待している。
昨年来の一連の全柔連の不祥事の後も上村前会長が職にとどまって改革を実行する姿勢を示した際、柔道の経験のない人々を含め多数の国民が柔道界の現状を憂い、抜本的改革を望んだ。私の知る知識人や文化人の中にも、具体的な改革を論じ柔道界の再生を願う声が強かった。そこで、私が事務局役を引き受けて、文化・スポーツ、政治、国際関係で幅広い経験と見識をもつこれら有識者の方々と現状を憂う柔道経験者とで協力して、改革の方向について提言案を作成した経緯がある。当初、上村全柔連に向けて作られたこの提言は、改革を目指す新体制にとっても有意義であると考える。指導部の交代で柔道界の課題が変わるものではないからである。よって、作成された提言をこのホームページで読者にご紹介することにした。
日本柔道界が抱える課題はきわめて複雑で多岐にわたる。これまでの慣習もあり短期間では到底克服できない。この提言は、改革意欲を示した新しい全柔連を支持し、応援するものである。

 

日本柔道の再生への提言

2013年8月22日

 

全日本柔道連盟では、宗岡正二氏を会長とする新しい体制が発足した。私たちは、新体制の発足を歓迎し、改革に向けた宗岡会長の強い意志を高く評価する。直面する課題は幅広く、かつ複雑でもある。この機会に日本柔道界が時代の要請に合った真の変革を遂げることを切に願い、以下の通り提言し、新体制の活動を応援していきたい。

ロンドン五輪における日本柔道は不本意な結果に終わり、さらに昨年末から続く全日本柔道連盟にかかわる最近の事態には、柔道関係者のみならず多くの国民が心を痛めている。昨今、柔道を学ぶ者の礼節の欠如についても耳にする。柔道を学んでいる青少年の一部にも柔道離れの動きもみられ、状況は危機的である。この危機を乗り越えるためには、単に現在問題になっている暴力根絶、財務管理の適正化、指導方法の改善などを超えた、さらに幅広い改革が必要である。世界的視野を持って、外部人材をも活用しつつ組織の再編を含む改革を通じて、柔道の価値の一層の発展のために国内外で指導力を発揮することが重要である。
嘉納治五郎師範が創始し普及した柔道は、いまや主要な五輪競技のひとつとなっているだけでなく、アジア、アフリカを含む約200の世界中の国や地域の草の根レベルでも熱心に学ばれている。その背景には、柔道が持つ体育・知育の手段としての特性、とりわけ忍耐力、自制心、礼節等の精神性の涵養、自他共栄の実現という目的があるからと考えることができる。我が国発祥の武道がこのように世界で普遍性を持つようになった事実は、柔道が世界の無形文化財ともいうべき価値を示すものと私たちは考え、日本人として誇りに思うものである。従って、柔道発祥地である我が国は、金メダル獲得に力を集中するだけでなく、世界における柔道の健全な発展のために主導的役割を果たすべきである。
新しい体制の下での改革においては、とくに次のことを含むべきである。

1.新会長のもとに柔道界内外の見識の高い多様な男女の人材を幅広く登用すること
2.全柔連のガバナンスについて、理事会、評議員会の構成や機能の見直し、年次・性別・
出身母体等にとらわれない自由で公正な議論を実現するとともに、
組織の企画・財務・国際・広報部門の陣容の抜本的強化を図ること
公益財団法人にふさわしい経理的基礎、技術的能力、監査制度の強化
3.全柔連と講道館との関係の見直し
4.礼節や忍耐力の涵養など、柔道を学ぶ意義や価値に関する教育・指導・発信の強化
5.世界における柔道のあり方に関し積極的に関与すること、このため、ルール造り、
試合運営などについて国際柔道連盟(IJF)及び他国との連携や協議を積極的に推進
すること

 

賛同者名簿(五十音順、敬称略)

明石 康(国連元事務次長)
有森裕子(NPOハート・オブ・ゴールド代表)
小倉和夫(国際交流基金前理事長)
近藤誠一(文化庁前長官)
杉山芙沙子(パーム・インターナショナル・テニス・アカデミー校長)
中川正輝(パリ日本文化会館前館長)
永瀬義規(ジャパンスポーツコミッション代表取締役)
原田義昭(衆議院議員)
古田英毅(eJudo 編集長)
松浦晃一郎(ユネスコ前事務局長)
三原朝彦(衆議院議員)
吉井 栄(日本国際ローンテニスクラブ事務局長)